今回の研究会で何度も見えてきたのは、「AIを使うこと」そのものではなく、その先でどんな学びをつくるかという問いでした。 AIで個別にフィードバックする。人と対話して考えを深める。単調な練習を、もう一度やりたくなる活動へ変える。 4つの発表から、これからの英語授業を考えます。
対話×テクノロジーによる未来志向型英語授業の研究
石川氏からは、高校でのオンライン英会話とAI活用を組み合わせた授業実践が紹介されました。 ポイントは、教科書を読む前・読んでいる最中・読んだ後を別々の活動にせず、 一つの学びの流れとしてつないでいたことです。
教科書で社会的なテーマを扱うとき、生徒が本文の内容を理解しただけで終わるのではなく、 「自分ならどう考えるか」「相手の意見を聞いたら考えはどう変わるか」まで進めるには、 実際に言葉を使う場面が必要になります。そこで、教室内の学習とオンライン英会話、 さらにAIによるフィードバックや評価を組み合わせ、学習した内容を対話へつなげるカリキュラムが構成されていました。
まず自分の考えを書く
外国人講師と対話する
AIとのやり取りで確かめる
Before Reading
"What makes you happy?" という問いに自分の意見を書き、AIからフィードバックを受ける活動を参加者も体験しました。 どのようなプロンプトや評価観点で返すとよいかも紹介され、AIを「答えを出す道具」ではなく、 考えを言葉にするための支援役として使う設計が示されました。
During Reading
生徒一人ひとりに外国人講師がつき、教科書で扱う社会的な話題について意見を交わします。 全員が同じ相手・同じ速度で進むのではなく、それぞれの英語力や価値観に応じて個別に対話できるところが特徴です。 教科書で得た知識を、相手と考えを深めるための材料として使います。
After Reading
AIとの「やり取りテスト」を行い、内容理解だけでなく、理由付け、聞き返し、会話の展開などを振り返ります。 自動で残る記録から、「何を言えたか」「どこで止まったか」「どう言い換えたか」といった過程も確認できます。 表現の改善や外部模試の成績推移も紹介されました。
AIが代替するのではなく、「対話の前後」を支える
この実践でAIが担っていたのは、外国人講師との対話そのものを置き換えることではありません。対話に入る前に自分の考えを整理し、対話の後に表現や内容を振り返る。その前後を支えることで、一人ひとりが実際のコミュニケーションに向かいやすくなるよう設計されていました。
教師が40人分の作文や発話に毎回個別コメントを返すことは容易ではありません。AIを補助役として使うことで、フィードバックの頻度を増やしながら、人間との対話に時間を使う。この役割分担が、未来志向型授業の一つの姿として提示されていました。
AIと人間の役割を分けるのではなく、AIで準備し、人と話して考えを深め、またAIで振り返る。その循環が、生徒の「自分の英語力を見る目」まで育てていたのが印象的でした。
デジタルとアナログの融合による医療英語発話練習
山森氏のミニ発表では、かるた取りの要領とスマートフォンのAI音声認識を組み合わせた Rehab Read-aloud Karuta が紹介されました。
カードを取った学習者が英語を読み上げ、音声認識の結果をその場で確認する。 正しく認識されればカードを獲得できる――というシンプルな仕組みです。 普通に行えば単調になりがちな発音・音読練習に、競争、達成感、即時フィードバックが加わることで、 発話することそのものが活動の中心になります。
特に興味深いのは、学習者に「何回発音しなさい」と指示するのではなく、 カードを取りたい、相手より先に答えたいという活動上の目的があることで、結果として発話回数が増える点です。 技術を入れることが目的なのではなく、学習行動を自然に引き出すために技術を使っていることが、この実践の強みでした。
「発音練習をさせる」のではなく、「カードを取りたいから、結果として何度も発音する」。学習行動が自然に生まれるように設計されていました。
AIが先生の負担を激減する:採点・教材づくりの“未来基準”


石飛氏の1本目の発表では、AIを活用するとライティングやスピーキングの評価、リスニング教材づくりなどを 非常に短時間で行えることが紹介され、参加者も実際に体験しました。
ただし発表の中心は「便利になった」という話だけではありません。 教材が簡単につくれる時代には、生徒自身が必要な教材をつくり、自分の学びを調整することも可能になるのではないか。 そこから、教師の役割そのものが変わっていく未来像が示されました。
例えば、分からないところがあればその場でAIに質問する。自分が苦手な項目をもとに小テストを作る。 必要な練習量や難易度を自分で選ぶ。これまで教師が一斉に用意していた「教材」や「課題」の一部を、 学習者自身が自分の状態に合わせて生成できるようになると、学習の主体は大きく変わります。
そのとき教師に求められるのは、すべての説明や採点を自分で抱えることではなく、 生徒がどの課題に取り組むべきか、どこで支援が必要か、学びが偏っていないかを見取り、 学習環境全体を整えることです。発表では、この変化を Teacher から Manager へ という言葉で表現していました。
AIで先生がいらなくなる、という話ではありません。むしろ、生徒が自分で学べる時代だからこそ、「どんな学びをつくるか」を考える先生の役割が大きくなる、というメッセージでした。
生徒が動く・笑う・参加する:ゲーミフィケーション授業の実践と設計
2本目の発表では、ゲーミフィケーションを 「ゲームを使うこと」ではなく、ゲームが持つ要素を学習へ応用することとして整理。 時間制限、進歩感、競争、協力、フィードバック、ポイントなどを、普段の活動にどう組み込むかを考えました。
会場では、よくある文法問題を提示し、「これをゲーミフィケーションするとどうなるでしょうか?」という問いでアイデアを共有。 ICTツールを使う案だけでなく、ルールや役割、競争・協力の仕組みを少し変えるだけの案も飛び出しました。
さらに、Kahoot!、Zep Quiz、音読メーター、QuickFire(瞬間口頭英作文)などの事例も紹介。 「楽しい」で終わらせず、反復回数や発話量を増やし、学習に向かう行動を生み出すための設計としてゲーミフィケーションを捉える視点が共有されました。
例えばQuickFireでは、短い制限時間の中で日本語を英語に変換するという単純な練習に、 「間に合うか」「もう一問やりたい」という挑戦性が生まれます。Zep Quizのチーム戦では、 時間の制約、競争と協力、ポイント、ランキング、進歩感といった複数のゲーム要素が加わります。 同じ文法事項を扱っていても、活動のルールを変えるだけで、生徒の参加の仕方が変わることが示されました。
一方で、発表では「どんな活動にもゲームを入れればよい」という考え方ではなく、 どのゲーム要素が学習目的に合うかを選ぶことが重要だと整理されました。 競争が合う生徒もいれば、協力の方が参加しやすい生徒もいます。 教材そのものよりも、学習者がどう動くかを見ながら活動を設計することが、ゲーミフィケーションの本質として共有されました。
「どのツールを使うか」より先に、「生徒にどんな行動を起こしてほしいか」を考える。そこから逆算してゲーム要素を選ぶことが、授業設計のポイントになりそうです。
参加者アンケートから
セミナー後の自由記述には、AIの便利さへの驚きだけでなく、「実際の授業でどう使うか」「学校の環境で実現できるか」といった、 現場ならではの視点が多く寄せられました。個人が特定されない形で、一部をご紹介します。
具体的なツールや実践例があり、とても未来の教育の可能性が伝わるいい時間でした。
ライティングとスピーキングの課題を今より多く出したいのですが、採点の観点からなかなか増やせていないので、活用できたらと感じました。
今後さらにAIを活用して、生徒が楽しめる授業を目指したい欲が強くなりました。
既存のアプリより、現場の実態やニーズに即した構成になっていて、早速使わせていただきたいと思いました。
石川先生の実践には大変興味がありました。高校1年生が、あそこまで英語を話せるようになっていることに驚かされました。
今日学ばせていただいたことのうち、できることを一つでも実践していきたいと思いを新たにしました。
自由記述には、「学校のMicrosoftアカウントでどこまで使えるか」「自治体の規制で生徒端末ではAIを使いにくい」といった声もありました。 新しい技術の可能性だけでなく、学校ごとの端末環境・アカウント・利用ルールを踏まえ、 できるところから実践に落とし込む必要があることも、参加者の声から見えてきます。
4つの発表から見えてきたこと
教科書で学んだことを、人とのやり取りの中で使うことで、理解と表現が結びつく。
書く・話す・教材をつくる場面で、一人ひとりへのフィードバックを増やせる。
競争、協力、達成感、即時フィードバックが、反復練習への参加を支える。
AI時代には、学習者が自分で学べる環境を設計し、必要な支援を選ぶ役割がさらに重要になる。
AIでできることが増えるほど、授業で大切にしたいことも、はっきり見えてきます。人と話すこと。自分で考えること。何度も挑戦したくなること。そして、先生がその学びを支えること。愛知セミナーは、テクノロジーの話でありながら、最後は「どんな学びをつくりたいか」を考える時間になりました。また次の研究会でお会いしましょう!
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